シニアメンタルケア情報局

【介護職員向け】現場で活かす!高齢者の経験・価値観を理解する関わり方

Tags: 高齢者介護, メンタルケア, 個別ケア, コミュニケーション, 傾聴, 介護職員向け

あなたは、ご利用者様との関わりの中で、「なぜこの方は、こんなに特定のことにこだわるのだろう?」「どうしてこの話ばかりされるのかな?」と疑問に思ったり、対応に戸惑ったりしたことはありませんか。介護の現場では、マニュアル通りの対応だけでは難しい場面に多く出会います。

ご利用者様一人ひとりは、私たちよりもずっと長い人生を歩んでこられました。その人生の中で培われた経験、大切にしてきた価値観、そして時には辛い出来事などが、今のその方の言動や考え方に深く影響しています。これらの背景を理解することは、単にその方のことを知るだけでなく、より深く寄り添ったケアを行い、信頼関係を築く上で非常に重要になります。

この記事では、若手介護職員の皆様が、高齢者の経験や価値観を理解し、日々のケアにどう活かせるのかについて、具体的な視点や方法をお伝えします。

なぜ高齢者の経験や価値観の理解が重要なのでしょうか

私たちは皆、自分の過去の経験や、大切にしている考え方、いわゆる「価値観」に基づいて生きています。それは高齢になっても変わることはありません。むしろ、環境の変化や心身の機能低下、そして様々な喪失(仕事、友人、家族、健康など)を経験する中で、これまでの人生で培ってきた「自分らしさ」や「大切にしていること」が、心の安定を保つためのよりどころとなることがあります。

例えば、かつて教師として多くの生徒を指導してきた方が、人に何かを教えることに強いこだわりを持つことがあります。また、若い頃から綺麗好きで家を常に整理整頓していた方が、少しの乱れにも大きな不安を感じることがあります。

これらの行動は、表面だけを見ると「困った行動」に見えるかもしれませんが、その方の過去や価値観を知ることで、「〇〇さんにとっては、それは非常に大切なことなんだな」と理解できるようになります。この理解は、その方の言動の背景にある気持ちに気づき、共感をもって対応するための第一歩となります。

また、ご自身の人生について語ることは、高齢者にとって、自己肯定感を高めたり、過去を肯定的に捉え直したりする機会にもなります。「自分の人生には意味があったんだ」「こんな経験をしてきたから今の自分があるんだ」と感じることは、生きる意欲にも繋がります。

現場で気づくための観察・傾聴のポイント

ご利用者様の経験や価値観を知るためには、特別なことをする必要はありません。日々の何気ない関わりの中での「観察」と「傾聴」が最も重要です。

特に、回想法(高齢者が過去の経験を語ることで、精神的な安定や自己統合を図るケア手法)のような特別な時間だけでなく、着替えや食事の介助中、あるいはレクリエーションの時間など、普段の生活の中で自然に話されることに耳を澄ませることが大切です。

具体的な対応方法・ケアの工夫

ご利用者様の経験や価値観を理解したら、それを日々のケアにどう活かせるでしょうか。

  1. 傾聴を深める:
    • ご利用者様が過去の話を始めたら、「その頃はどんな様子でしたか?」「特に楽しかった思い出は何ですか?」など、具体的なエピソードを引き出すような質問をしてみましょう。ただし、無理強いは禁物です。
    • 話に出てきた場所や出来事について、もし可能であれば写真や資料を見せるなど、会話を広げる工夫も有効です。
    • 繰り返し同じ話をされることもありますが、「また同じ話だ」と思わずに、「〇〇様にとって、その出来事はそれだけ印象深い、大切なことなんだな」と受け止めて、根気強く耳を傾けましょう。
  2. ケアに反映させる:
    • 例えば、かつては自分で何でもきっちりこなしていた方であれば、できる部分はご自身で行っていただく機会を作る、あるいは声かけの際に「さすがですね」「お上手ですね」など、その方の能力を認める言葉を添えることが有効かもしれません。
    • 特定の趣味や仕事に打ち込んできた方であれば、それに関連する物品を身近に置いたり、その話題に触れる機会を作ったりすることで、安心感や生きがいにつながることがあります。
    • 大切にしている習慣(例:朝一番にお茶を飲む、決まった時間に散歩するなど)があれば、可能な範囲でそれを尊重し、日課としてケア計画に組み込むことを検討します。
    • 苦手なことや嫌がることの背景に過去の経験がある場合、その経験を踏まえ、「〜が苦手だと伺いました。今日はこんな風に少しだけ試してみませんか?」のように、配慮しながら丁寧に声かけを行います。
  3. 多職種・チームで情報を共有する:
    • 日々の関わりで気づいたご利用者様の過去のエピソードや大切にしていること、それらを踏まえたケアの工夫などを、記録にしっかりと残しましょう。
    • チーム内のミーティングやカンファレンスで積極的に情報を共有し、ケアチーム全体でご利用者様の「その人らしさ」を理解し、統一した方針でケアにあたれるように努めましょう。

ご利用者様の人生の物語を知ることは、その方を深く理解するための宝物です。それは、マニュアルには書かれていない、その方だけのケアを見つけるヒントになります。

専門家との連携について

ご利用者様の過去の経験や価値観の理解は、主には介護職員の日々の関わりの中で深めていくことができます。しかし、過去の経験が現在の精神状態(例えば、過去のトラウマが強い不安を引き起こしているなど)に深く影響していると考えられる場合や、傾聴だけでは対応が難しい言動が見られる場合は、一人で抱え込まずに、施設の看護職員や生活相談員、ケアマネジャーなどの専門職に相談・報告することが重要です。

必要に応じて、心理職や精神科医といった専門家によるアセスメントやケアが必要となることもあります。介護職員は、ご利用者様の一番身近にいる存在として、気づいたこと、感じたことを正確にチームに伝える役割を担います。

まとめ

高齢者のメンタルケアは、病気や症状への対応だけでなく、その方の人生全体を理解し、尊重することから始まります。ご利用者様がこれまで歩んでこられた道、大切にしてこられた想いに耳を傾け、その「人となり」を知ることは、介護職員としてご利用者様に深く寄り添うための貴重な経験となります。

すべての疑問や戸惑いがすぐに解消されるわけではないかもしれません。しかし、一人ひとりのご利用者様に心を開き、その方の人生の物語に触れようとするあなたの姿勢は、必ずご利用者様との信頼関係を築き、より質の高い、その人らしいケアへと繋がっていくはずです。

日々の忙しい業務の中でも、ご利用者様がお話しされる一言ひとことに耳を傾け、その方の人生に思いを馳せる時間を大切にしてみてください。それが、あなたの介護の引き出しを増やし、自信を持ってケアにあたる力になるでしょう。