【介護職員向け】高齢者のせん妄、見つけ方と最初の対応
高齢者のケアに携わる中で、「いつもと違う」「急に様子がおかしくなった」と感じて戸惑うことはありませんか。特に、普段は穏やかな方が急に興奮したり、つじつまの合わない話をしたりする場面に直面すると、どのように対応すれば良いか迷ってしまうかもしれません。
それはもしかすると、「せん妄」かもしれません。せん妄は高齢者によく見られる、一時的な意識や思考の障害です。体調不良や環境の変化など、様々な原因で突然起こることがあります。早期に気づき、適切に対応することが、ご本人の回復や安全のために非常に重要になります。
この記事では、介護職員の皆さんが現場で高齢者のせん妄に気づくためのサインと、すぐにできる最初の対応について分かりやすく解説します。
高齢者のせん妄とは?認知症との違いも理解しよう
まず、せん妄がどのような状態なのか基本的な知識を確認しましょう。
せん妄とは
せん妄は、病気や薬の影響、環境の変化などが原因で、一時的に意識がぼんやりしたり、考えがまとまらなくなったりする状態です。急に始まり、一日のうちでも症状が変動しやすいという特徴があります。
主な症状として、以下のようなものが挙げられます。
- 意識レベルの変化(ぼんやりする、呼びかけに反応しにくい、逆に過剰に反応する)
- 注意力の低下(集中できない、話がすぐにそれる)
- 思考の混乱(つじつまの合わない話をする、考えがまとまらない)
- 見当識障害(今どこにいるか、時間がいつか分からない)
- 知覚のゆがみ(幻視・幻聴など、実際にはないものが見えたり聞こえたりする)
- 感情や行動の変化(落ち着きがない、興奮する、怒りっぽくなる、逆に無気力になる)
- 睡眠覚醒リズムの障害(昼夜逆転、不眠)
認知症との違い
認知症も高齢者によく見られますが、せん妄とは異なります。
- 認知症: 脳の病気によって、記憶や判断能力などが慢性的に低下していく状態です。ゆっくりと進行することが多いです。
- せん妄: 体調や環境などの影響で一時的に起こる、急性の意識・思考の障害です。原因を取り除けば改善する可能性があります。
認知症がある方が、さらにせん妄を起こすこともよくあります。その場合、認知症による症状なのか、せん妄による症状なのかを見分けるのが難しくなることがありますが、「いつもと違うか」「急に始まったか」という点がせん妄を見つける上での重要な手がかりになります。
また、せん妄には大きく分けて活動性が高まるタイプ(興奮や幻視など)と、活動性が低下するタイプ(ぼんやり、無気力など)があります。特に活動性が低下するタイプのせん妄は、単に元気がなくなった、疲れているなどと思われ見逃されやすい傾向がありますので注意が必要です。
現場で見逃さない!高齢者のせん妄サイン
介護職員の皆さんが日々のケアの中で「もしかしてせん妄かな?」と気づくための具体的なサインを挙げます。普段のご利用者の様子をよく知っている皆さんだからこそ、気づけるサインです。
- 話し方の変化:
- 急につじつまの合わない話をするようになった
- 話の内容が飛ぶ、会話が続かない
- 存在しない人や物について話す(幻視や妄想の可能性)
- 声のトーンや大きさがいつもと違う
- 行動の変化:
- 急に落ち着きがなくなり、そわそわしている
- 怒りっぽく、易怒性が見られるようになった
- 点滴やチューブを抜こうとする、医療機器を気にする
- 逆に、ぼんやりとして反応が鈍い、刺激への反応が遅い(非活動性せん妄のサイン)
- 着替えや食事など、今までできていた簡単な行為ができなくなった
- 徘徊や不穏が見られる
- 感情の変化:
- 急に不安そう、怖がっている様子
- 理由もなく泣いたり笑ったりする
- 無気力で、何もしたがらない(非活動性せん妄のサイン)
- 睡眠の変化:
- 昼間にうとうとしている時間が増え、夜眠れない(昼夜逆転)
- 夜間に大声を出したり、起き上がって活動しようとしたりする
- 身体的な変化(原因やきっかけとなる可能性):
- いつもより元気がない、だるそう
- 食欲不振、水分をあまり摂らない(脱水の可能性)
- 熱がある、咳が出ている(感染症の可能性)
- 排泄の回数や状態が変わった(便秘、尿路感染症の可能性)
- 新しい薬が始まった、薬の種類や量が変わった
これらのサインは、単独で現れることもあれば、複数組み合わさることもあります。「あれ?今日の〇〇さん、いつもと違うな」と感じたら、これらのサインがないか注意深く観察してみましょう。
「せん妄かも」と思ったときに介護職員ができる最初の対応
「いつもと違う」サインに気づき、せん妄かもしれないと感じたら、不安になるかもしれません。しかし、まずは落ち着いて、ご利用者の安全を確保し、適切な対応を始めることが大切です。
介護職員がすぐにできる最初の対応は以下の通りです。
- まずは落ち着いて寄り添う:
- ご利用者のそばに行き、「大丈夫ですよ」「ここにいますよ」など、安心させるような声かけを穏やかなトーンで行います。
- 無理に説得したり、症状を否定したりせず、ご利用者が感じているであろう不安や混乱に寄り添う姿勢が大切です。「怖いですね」「何か気になることがあるのですね」など、共感的な言葉も有効です。
- 安全を確保する:
- 落ち着きがない様子であれば、転倒の危険がないか、ベッドの柵を適切に使用しているかなどを確認します。
- 点滴やチューブ類があれば、引っ張ってしまわないか注意深く見守ります。
- 徘徊が見られる場合は、安全に誘導し、落ち着ける場所へ案内します。
- 安心できる環境を整える:
- 部屋の照明は、明るすぎず暗すぎず、落ち着ける明るさに調整します。夜間も真っ暗にせず、常夜灯などを活用します。
- 騒がしい場所であれば、静かで落ち着ける場所へ移動します。
- 普段から使い慣れているもの(写真、お気に入りの毛布など)をご利用者のそばに置くことも安心につながります。
- 必要であれば、カレンダーや時計を見える場所に置き、「今は〇月〇日の〇時ですよ」「ここは〇〇ホームのあなたの部屋ですよ」など、優しく現実を伝えます。ただし、抵抗が強い場合は無理強いしません。
- 原因となりうる身体的な変化がないか観察する:
- 熱はないか、顔色や呼吸に変わりはないか、食欲や水分摂取量はどうか、排泄の状況はどうかなど、身体的な側面も観察します。
- 新しい薬が始まった直後ではないか、過去に同じような症状が出たことはないかなども確認できると良いでしょう。
- 詳細な情報を記録し、すぐに報告・共有する:
- 「いつから」「どのような」症状が出ているのかを具体的に記録します。時間帯によって症状が変動する場合が多いので、気づいた時間や状況も詳しくメモしておきましょう。
- 何に対して不安そうだったか、どのような言動があったかなど、観察した内容を具体的に記録します。
- 記録した情報とともに、すぐにリーダーや看護師などの専門職に報告・共有します。迅速な情報共有が、早期診断と適切な治療につながります。
せん妄は、原因となっている体調不良などが改善すれば、症状も落ち着くことが期待できます。介護職員の皆さんの早期発見と落ち着いた対応が、ご利用者の苦痛を和らげ、回復をサポートする第一歩となります。
専門職との連携の重要性
「いつもと違う」に気づき、記録・報告すること。これが介護職員の皆さんが最も重要な役割を果たす部分です。
せん妄の原因を特定し、医学的な治療が必要かどうかを判断するのは、医師や看護師の役割です。介護職員の皆さんが観察した具体的な情報(いつ、どのような症状が見られたか、どのような対応をしてどうなったかなど)は、専門職がご利用者の状態を正確に把握し、適切な対応や治療方針を決める上で非常に貴重な情報となります。
一人で抱え込まず、チーム全体でご利用者の状態を把握し、協力してケアにあたりましょう。疑問に思うことや判断に迷うことがあれば、遠慮なく経験豊富な先輩職員や看護師に相談してください。
まとめ
高齢者のせん妄は、介護現場で遭遇する可能性のある、一時的な意識や思考の障害です。「いつもと違う」「急に様子がおかしくなった」というサインを見逃さないことが、早期発見の鍵となります。
落ち着いてご利用者に寄り添い、安全な環境を整えるなど、現場でできる対応から始めてみましょう。そして最も重要なのは、観察した内容を具体的に記録し、すぐにリーダーや看護師などの専門職と情報共有することです。
せん妄は適切に対応することで改善が見込める状態です。皆さんの日々の丁寧な観察と、チームとの連携が、ご利用者の安心と回復を支える力になります。自信を持って、目の前のご利用者の「いつもと違う」サインに寄り添ってみてください。