シニアメンタルケア情報局

認知症の方の「いつもと違う」行動にどう向き合う?BPSDの理解と現場での関わり方

Tags: 認知症, BPSD, 介護, メンタルケア, 高齢者

「なんだか、いつもと違うな…」

介護の現場で働き始めたばかりの頃、認知症のご利用者様の急な変化に戸惑うことはありませんか?穏やかだった方が急に興奮されたり、特定の場所にこだわったり、時には介護を拒否されたり…。学校では基礎的な知識を学びましたが、目の前の「いつもと違う」行動を目の当たりにすると、「どうすればいいんだろう」と立ち止まってしまうかもしれません。

この記事では、認知症の方に見られる行動や心理の変化、いわゆる「BPSD(行動・心理症状)」について、その基本的な理解と、現場で実際にどのように向き合い、関わっていけば良いのかを分かりやすく解説します。

BPSD(行動・心理症状)とは何ですか?

BPSDとは、「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の略称で、認知症に伴って現れる行動や心理的な症状全般を指します。

認知症の主な症状は、記憶障害や見当識障害、判断力の低下といった「中核症状」ですが、それによって生活上の困難や混乱、不安などが生じ、二次的に現れるのがBPSDです。BPSDには非常に多様な症状が含まれます。例えば、

などがあります。これらの症状は、ご本人や周囲の方々にとって大きな苦痛や負担となることがあります。

なぜBPSDは起こるのでしょうか?

BPSDは、認知症という病気そのものが脳に変化をもたらすことに加え、様々な要因が複雑に絡み合って現れると考えられています。原因は一つとは限りません。

主な原因として、以下のようなものが挙げられます。

  1. 中核症状による影響:
    • 記憶障害で直前の出来事を忘れてしまい、混乱や不安を感じる。
    • 見当識障害で場所や時間が分からなくなり、落ち着かず動き回る(徘徊)。
    • 理解力や判断力の低下で、状況が把握できず苛立ちを感じる。
  2. 身体的な要因:
    • 発熱、痛み、便秘、脱水などの体調不良。
    • 服用している薬の副作用。
    • 視力や聴力の低下。
    • 睡眠不足。
  3. 心理的な要因:
    • 環境の変化(引っ越し、入院、入所など)による不安やストレス。
    • これまでできていたことができなくなることへの苛立ちや自信喪失。
    • 寂しさ、退屈。
    • 過去の出来事や経験に基づいた感情(例: 戦争体験のある方が特定の音に反応するなど)。
  4. 環境的な要因:
    • 騒がしい、暗すぎる・明るすぎるなど、落ち着かない環境。
    • 暑すぎる、寒すぎるなど、不快な温度。
    • 人の多さや動きの速さ。
    • 無理な介護や急かされるような関わり方。

このように、BPSDは単にご本人の「わがまま」や「困らせようとしている」行動ではなく、ご本人の中で何らかの理由があって起こるSOSや、混乱・不安の表現であると理解することが大切です。

現場で気づくための観察ポイント

日々の介護業務の中で、BPSDに早く気づき、適切に対応するためには、丁寧な観察が欠かせません。特に注意して観察したいのは、以下のような点です。

これらの変化に気づいたら、「なぜだろう?」と考えてみることが第一歩です。記録に残し、他の職員と情報共有することも非常に重要です。

BPSDへの具体的な対応方法・ケアの工夫

BPSDへの対応は、まずその行動の背景にある原因を探ることから始まります。原因に応じた対応が効果的です。ここでは、現場で実践できる具体的な関わり方やケアの工夫をいくつかご紹介します。

1. まずはご本人の気持ちに寄り添う

行動の理由が分からなくても、まずはご本人の不安や混乱した気持ちに寄り添う姿勢が大切です。

2. 行動の背景にある原因を探り、取り除く・和らげる

観察を通じて見えてきた原因に対して、具体的な対応を試みます。

3. 特定の行動への対応例

4. チームで情報を共有し、個別ケアを考える

BPSDへの対応は、一人で抱え込まず、チーム全体で取り組むことが重要です。

専門家との連携も視野に

現場での対応で改善が見られない場合や、症状が重い場合、ご本人や周囲の安全が確保できないような場合は、一人で悩まず、専門家への相談・連携を検討するタイミングです。

BPSDは、病気の一部として起こる症状であり、決してご本人の意思や性格だけで決まるものではありません。原因を理解し、ご本人の気持ちに寄り添いながら、安全で安心できる環境と関わり方を提供することが、BPSDを和らげる上で非常に重要です。

まとめ

認知症の方のBPSDへの対応は、根気がいることも多く、正解が一つとは限りません。しかし、「なぜこの行動が起こるのだろう?」とご本人の内面や周囲の状況に目を向け、様々な対応を試み、チームで協力しながら取り組むことで、ご本人も介護する側も穏やかに過ごせる時間が増えるはずです。

介護の現場では日々、新しい発見や学びがあります。今日の経験が、明日のケアにつながります。一人で抱え込まず、先輩職員やチームに相談しながら、あなた自身のケアも大切にしながら、一緒に学んでいきましょう。